私がこのシステムをはじめた理由

我が家を建てた経験が建築コーディネートサポート(ACS)の始まりでした。

代表取締役 吉田光宏

私は最初から住宅業界にいたわけではなく、皆さまと同じように我が家をプロに建ててもらいました。設計は一級建築士事務所で、そこの人が推薦した建設会社に建ててもらったのです。でも……

最初は、本当に楽しくワクワクした。

工場生産が多いハウスメーカーと違い、建築士とゼロから作る作業は、真っ白な図面が少しずつ家らしくなっていき、とても楽しいものでした。「今住んでいるアパートのお風呂は狭くて、家族では入れないから大きなお風呂がいい」「お義母さんがいつ来てもいいような部屋を作りたい」「床は無垢の桜を使いたい。リビングは広く、130インチの巨大なスクリーンと5.1チャンネルの音響で迫力ある映画鑑賞がしたい」「リビング続きで小上がりのある琉球畳の和室も作りたい」、今思い出しただけでもワクワクします。
そうした要望を言えば、次の打ち合わせで建築士から新たな図面が渡され、夢はさらに膨らみます。ここはこうしたい、あそこは収納スペースにと、まるで夢のパズルを完成させるようで本当に楽しい日々でした。

あるとき図面を見ていた妻が「この1階の軒先のスペースで洗濯物は乾くのかなぁ」と、素朴な疑問を建築士に投げかけました。東と南に2階建住居が建っていましたから、少し不安になったのです。でも建築士は「全く問題ないですね。この配置ですと南側の家とは2.5メートルほど離れているので直射日光が当たり、洗濯物はよく乾きます」。私たちは安心しました。そして安心感に包まれたまま建設が始まりました。

楽しみが暗転。

地鎮祭が終わり、ご近所にも挨拶を済ませ、いよいよ着工。仕事帰りに寄る「我が家」は本当に楽しみで仕方がない。土日は家族で現場に行って写真を撮り、出来上がるのを心待ちにしました。
しかし台風シーズン。施工途中に予想通り台風が来て、まだ透湿防水シートを貼る前の我が家は、まるで床下浸水状態。特に構造用合板が張られた床は人が歩くとグニャグニャで、合板は水をたっぷり含んで膨れ上がり、素人が見ても将来腐ってしまいそう。建設会社の社長に取り替えの要望をしたら「畳コーナーの構造用合板はサービスだから交換できないし、1日乾かせば問題なし」と言われたのです。

私は慌てて建築士に連絡。すると建築士は「それでは現場に行きますので、建設会社もそのまま待たせてください」
重たい空気が流れる現場に建築士が駆けつけました。私たちはほっと安心すべきところですが、この時の建築士のセリフに言葉を失いました。
「この土地には初めて来ましたが、非常に気持ちがいい環境ですね。建設会社にはしっかりと対応させますので安心してください」
建築士がこの建設現場に来たのは、何とこの時が初めてだったのです。現場も見ずに設計し、現場に来ないまま建設監理をしていたのです。

この人の最初の営業トークは「一級建築士事務所だから安心だし、建設会社の経験も豊富、お客様の要望やご意見は真摯に受け止め図面に反映する、もちろん建築士として監理もきっちりやる、そうして安心・安全・快適な家にします、私を信じてください」。
これらの言葉が全て嘘のように感じました。お隣さんにご迷惑をかけないように窓位置の確認をして欲しいと、あれほどお願いしたのに現場を一切見ないで適当に描かれた図面。建築士には監理料を払ったのにも関わらず、本人は監理を全くしていない……。洗濯物も乾かないかもしれない、と思ったのもこの瞬間です。

家づくりの楽しみは、この時から暗転しました。それを証明するように打ち合わせとは異なる出来事が色々と発生しました。図面に描かれている床の構造は「根太工法」、でも実際は「剛床工法」。和室は柱の見える「真壁」で決まっていたのに実際は「大壁」、「木胴縁下地」のはずだった壁は「直張り」、トイレの色と仕様も図面とはまるっきり違う。他にも書いたらキリがないくらい「図面を無視した色々なこと」がありました。

本来の設計とは、建設会社とは

建築士は、設計だけではなく現場を監理する義務があり監理料もとる。それなのに現場を見ないで設計し、着工後も無チェック。私自身がプロになった今にして思えば、衝撃的なほど有り得ないことなのです。
工事をする建設会社も問題です。図面と違うと思ったら、すぐに監理者の建築士に連絡すればいい。不明点は施工前にすぐ確認をすればいい。でも言われたことをやるだけ、完全に受身なのですね。

当時は、私だけが不運にもこんな業者に当たってしまったと思っていました。でも建設業界にはよくある話、と後で聞いてさらに驚きました。私たちにとって家は一生に一度の夢だけど、プロの側にとっては数ある仕事のひとつにすぎない。だから真心が入っていない。そうとしか思えませんでした。

私のような人を一人でも助けたいと、思いました。

業界のすべての人が真心なしで無責任とは思えません。良心的で腕のいい人もいるはずです。そうした人と出会うチャンスを創り出し、私のような経験者がお客様の立場で家創りをコーディネートすれば、我が家のような苦い思いをしない家創りができるはず。もちろん、そんなしくみは当時の業界にはありません。いつしか私は住宅業界に挑戦したいと考えるようになり、暇をみては現在の建築コーディネートサポートのしくみを整理していきました。今考えれば無謀な発想ですが、この業界の事など全く知らなかったからこそ、走ることができたのです。そして何より、私のような人を一人でも多く助けたいという、使命感みたいなものが芽生えたのも事実です。

幸いに私は、経営やビジネスに関する大手専門学校で18年にわたり教鞭をとっていました。宅地建物取引主任者や簿記会計、ファイナンシャルプランナーなどの資格を目指す授業も担当し、住宅の世界でもその知識・ノウハウを活かすことができます。また、家創りには設備や内装、電気関係など色々な細部の業者が関わりますが、我が家を建てたときに出入りしていた一部の業者の人が私の思いに共感して信頼できるプロを紹介してくれるなど、徐々にネットワークを広げることができました。

多くの業界人が猛反発!

キーワードは「建設業者からすれば日常の事。お客様からすれば一生に一度の事」、だから一生に一度というお客様の立場に立って、その思いを共有して家創りをコーディネートすること。
でも道のりは平坦にあらず。建築士、建設業者からは『理想論』と一喝され、今では当たり前となった第三者機関による検査を導入した時も「余計なことをするな」「職人にケチつけるのか」と脅迫電話まがいの嫌がらせを受けました。お客様のなかですら「建設会社が法律を無視し、手抜き工事なんてするわけない」と失笑した方がいました。

たとえ理解をしてくれた業者でも、仕事ぶりや財務状況をチェックした結果、参加業者リストから外れていただくケースもありました。
一時が万事と言いましょうか、現場が整理整頓されていない会社は、除外の対象です。また、携帯電話やラジオを引っ掛けておくために、建築現場の柱にクギを打つプロがいます。完成すれば見えなくなる部分ですが、お客様の家。しかも何十年も家を支える柱には、何か「生命」にも似たものが宿っているような気がします。そこにクギを打つというのは、プロとして無神経だと私は思います。そうした小さな心配りの欠如こそ、ミスやトラブルにつながりやすいのです。

自分の視点は、間違っていなかった。

そうした日々を経て、しくみと、優れた一級建築士事務所・施工業者のネットワークを構築していきました。この新発想が理解されるか不安ばかりが募りましたが、やがて多くの皆さんが共感してくださり、今日まで思いのほか多くの家創りをお手伝いすることができました。
そしてそのフィールドは、賃貸マンションや企業の建物、店舗、相続対策の土地活用にまで広がるようになりました。

しくみもさることながら、お客様の立場の第三者という存在に、予想以上のご好評をいただきました。信用されている。頼られている。一生の買い物を任されている。そのことを肝に銘じ、これからもひとつひとつの家創りを全力でサポートさせていただきます。

「住宅建築コーディネーター」が公的資格に。

私と同じ問題意識をもった人が全国にはいたようで、私の取り組みも参考にしていただきながら、現在では「住宅建築コーディネーター」という公的資格が誕生するまでになりました。今後は「建築士・不動産・建設会社」それぞれの業界の人がこの資格を活かし活躍されることでしょう。大賛成ですが、あえて苦言を呈すならば、安易に今の商売のツールのひとつと考えないこと。当り前のことですが大切なのは「どの業界であっても、知識ばかりでなくお客さまの立場でよく考え、思いを持って行動すること」です。

私自身は、今まで書かせて頂いた通り「お客さまの立場で家創りをコーディネート」と考えているため、建築士・不動産・建設会社のどこにも属さない「第三者の立場」で、どの業者・業界に偏らずに仕事をしていきます。お客様をサポートするとともに「住宅建築コーディネーター」という新しい資格の社会認知向上にも貢献していこうと思います。
素人だったあの時の私のような人を、一人でも多く助ける。この原点の使命感を忘れずに。